7回目の冬のアラスカ山脈登山を終えた今年4月、アラスカの友人と同じ山系のサンフォード(4950m)へ春山の旅にでかけた。冬のマッキンリーなどへはいつも軽飛行機で3合目辺りの氷河に降り、そこから登り始めるので麓の村からスキーでアプローチした初めての山旅だった。
リュックを背負い、荷物をのせたソリを引き、凍った川面をさかのぼっていく。山頂まで往復120km、2週間の道のりである。冬山の無機質な氷河地帯とはちがい、そこには春を迎える生き物たちの姿があった。
若芽をつけたヤナギや雪の重みで曲がったトウヒの木々を抜け、アラスカの州鳥・ライチョウたちのプロポーズ合戦に遭遇した。明け方までオーロラの舞っていた空には南から渡ってきた白鳥の群がV字を描いている。
ヒグマやトナカイ、オオカミ、ヤマネコなどの足跡がゆくての雪原に現れる。子供のころに見た動物図鑑、そんな世界だ。私は、少年のようにワクワクし、胸がおどった。
帰り道にふと、目にとまった。それは、往きに私たちが雪を踏み固めて作った「道」の上に続くオオカミの真新しい足跡だった。獲物を探していたのだろうか、それとも人の臭いを嗅いでいたのだろうか。もしかするとオオカミは深い雪に足をとられるよりも、踏み固められた雪道を歩くほうが楽なことを知っていたのかもしれない。
「ちょっと通らせてもらいますよ」
雪道に続く足跡を追いながら、そんなオオカミの声が聞こえた。
人間界とかけはなれたオオカミの世界にふれた気がした。私は、道がとりもつ不思議なつながりに思いをはせた。道、生き物が通るから道―と。
栗秋正寿プロフィール
1972年大分県日田市生まれ。福岡県立修猷館高校時代から山歩きを始め、九州工業大学大学院を中退後の98年3月、冬季マッキンリーに単独登頂。下山後、リヤカーを引いてアラスカ縦断の旅を楽しむ。99年4月と2001年3月、マッキンリーに連なるフオレイカーに単独登頂。今もアラスカの山旅を楽しみ続ける「山の旅人」。著書「アラスカ垂直と水平の旅」(山と渓谷社)。ホームページは http://www.japanesecaribou.com/