関門海峡の魅力は、やはり夕陽である。マンション二十四階の仕事場から、傾いていく太陽を眺めていると、わが人生の来し方が思われ、「あの時こうすればよかった」というような悔恨の情にとらわれて、夜更けまで悶々として過ごす。そういう時間が持てることの大切さに、この年齢になって気づいた。
しかし、陽はまた昇る。朝になって原稿用紙に向かい、いつものように仕事をして、午後散歩に出ると、「まだ残された人生がある」と行く末を考えたりする。わたしの場合は、歩いているときのほうが、より頭が回転するようで、当然ながら「前向き」である。そこが悶々と過ごした前夜と違うところで、「この先どう道をつけようか」と、自分の仕事の方向性を探るのだ。
せっかくの人生だから、「こういう分野の道をつけた」といわれるような仕事を残したい。そんな欲ばりなことを考えながら、いつもの散歩道を歩いていると、どんどん先へ進んでしまい、知らない道へ出ている。いつ、誰がこんな所に、道をこしらえたのだろうか、とキョロキョロしながらも感動を覚える。
そうなのだ、こうした道をつける人たちがいるから、自分も前向きに歩くことができる。後戻りしてみるのもよいが、やはり積極的に歩くことで、自分の仕事の道をつけなければならない。そう思えばこそ、私は道路をこしらえる人たちを、こころから尊敬する。
佐木隆三プロフィール
昭和12年生まれ。戦後、旧八幡市に移り、旧八幡製鉄所勤務。同人誌「日曜作家」や「九州作家」「九州文学」などに執筆。退職・上京後の50年、「復讐するは我にあり」で直木賞受賞。現代社会の暗部を描き続け「ドキュメント狭山事件」「沖縄住民虐殺」「越山田中角栄」など。最近は法廷取材ルポルタージュが多い。現在、北九州市門司区在住。