小学校に上がる頃、補助輪を外したピンクのジュニア用自転車に乗っていた。よく読んでいた絵本からとったのだろう。その自転車に「ピノキオ」と名付けていたことを覚えている。
実家のある大分県中津市は、今は住宅街だが、当時は家の周りは田んぼが多く、子どもの目線だと視界はどこまでも広がる平野だった。近くに唯一ゆるやかな坂道があって、そこで「ピノキオ」に乗るのが楽しみだった。近所の同級生4、5人といっしょに、何をするかと言えば、両足をあげてスピードに乗り、気持ちよく坂道を滑走する「自転車暴走族」遊び。夢中になって先頭を走った。
現在の私のお気に入りの道は、大分市西部の上八幡地区にある柞原八幡宮のそばにある。10年来の友人宅へと続く通い慣れた坂道で、愛車「ピノキオ」の思い出とよく重なる。このあたりの森は、人類が栄える前の自然の姿をとどめており、野生動物も生息する学術的にも貴重な森だそうだ。
高台からカーブを下って行くと、緑の木々の間から別府湾が見え、森を抜けるとそこには青い空と青い海が一気に広がる。晴れた日には近くの大分市内だけでなく、遠く国東半島や四国まで見渡すことができる。途中には豪快なワインディング道。そこからの風景は、鳥になったように心地よく、自由で身軽な感じがする。実は高所恐怖症なのだが、地に足がついている道だからか、安心感や優越感にひたることができる。
九州には、私の好きな道がたくさんある。きれいになった別大国道、路面電車と車が一緒に走る長崎の道、新北九州空港の連絡橋、熊本の阿蘇大観峰、鹿児島の霧島温泉へ向かう道…。どれもダイナミックな道ではあるけれど、心の底から印象に残る道は、やはり幼少時代の原風景に重なる柞原八幡宮の坂道だ。いつかこの坂道を自転車で滑走してやろうと、秘かに思っている。
【プロフィール】
大分県大分市在住。カラーズクリエイト代表(www.colorscreate.jp)。平成18年道守大分会議事務局長に就任。