ゆったりと川下りのどんこ舟が行き交う水郷・柳川。堀割沿いの「白秋道路」が私は好きだ。 百年ほど前、北原白秋がここを通って学校に通ったという。
観光地となった柳川。「白秋道路」は車の賑わいや騒音を避けたしつらえとなっていて、川、木々、緑、花が時間を止めるかのよう。あたりを歩くと、しじまが染みて、思わず深々と息を吸い込んでしまう。
春から一気に初夏へ―。こんな季節は堀端の柳たちが新芽をつけてしだれ、ゆらゆらと水面に映る。真っ赤なツツジが緑に映え、一方で道際のからたちは萌黄の新葉が目立つ。追いかけるように小さな白い花が続く。棘はいつも痛そう。コントラストに魅せられて白秋は「からたちの花」の詩を作ったのか。遠くでカササギの鳴き声がする、カチカチと。
私が小学校に通った道はここから少し離れていて、当時は田んぼの中の小道。やはり堀割沿いで、からたちも柳もあって、今よりたくましかった。蛇が道幅いっぱいに昼寝をして通せんぼした。怖くて立ちすくみ「誰か来てくれないか」と半べそかいた。その道もいまは乾いたアスファルトに変身している。
昔のまま土むきだしの、少しでこぼこだったら、いまのように車は疾走できないだろうし、歩きながら携帯メールなんて無理だよね。道端の、ひしゃげたペットボトルが目にとまった。
「白秋道路」に足が向くのは子供の頃へのノスタルジアなのかもしれない。道の便利さと引きかえに何かを失った。蛇と、ひしゃげたペットボトル。その落差のなかに、この先の道作りのヒントがあるのかもしれない。道守の役目があるのだろう、きっと。
【プロフィール】
福岡県柳川市生まれ。海外旅行ツアーコンダクターとして世界各地を巡った経験を生かし、現在文化サークルで「旅の英会話」を教える。柳川市が公募し行政と市民がともに話し合った「21世紀活性化委員会」の座長を務めた。「道守九州会議」の福岡県地区世話人。