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九州風景街道 座談会「九州風景街道、その魅力とこれからの展開」

風景街道づくり
― 九州の新しい挑戦として

 これから九州の風景街道がどう活動し、競争力を養っていくかが大事になってきた。果たして九州の風景街道に国内外からどれだけの人たちが訪れてくれるのか。より魅力的な風景街道を創っていくにはどうすればいいのか。話し合ってもらった。

九州風景街道づくり座談会の様子
 九州風景街道推進会議会長 : 明石博義氏
出席者
※2007年10月15日収録、
肩書きは座談会収録
当時のもの
国土交通省九州地方整備局長 : 小原恒平氏
九州大学大学院工学研究院准教授 : 樋口明彦氏
由布院温泉観光協会長 : 桑野和泉氏
 コーディネーター : 玉川孝道氏

もっと九州を自慢しよう

玉川
 九州では9つのルートで、風景づくりが進んでいます。これからどうやってより魅力ある風景街道に育てていくか。それがもっとも重要になってくると思います。まずは、九州の景観や風景街道には、どんな魅力や可能性があるのでしょうか。
明石
 九州経済調査協会が首都圏在住の女性を対象に行ったアンケート調査によると、北海道と九州とでは美しい自然や風景、おいしい食べ物といったイメージでは、九州がかなり劣っているという結果が出ております。  しかし、九州をつぶさに見てみますと、全国に28ある国立公園のうち、5ヶ所が九州内で指定されています。雲仙や阿蘇などの火山群の風景や、リアス式海岸や島々で構成される海岸線の美しさ、温泉の数や湧出量の豊かさ、あるいは郷土料理、新鮮な魚介類など多様な食文化もあります。また九州には古事記や日本書紀の時代から連綿と続く奥深い歴史があり、別府の油屋熊八氏や、宮崎の岩切章太郎氏ら先人が、数々の取り組みによって国内外から観光客を誘致し、観光産業を発展させてきた経緯があります。ただ、その多彩な観光資源を持つ九州の良さを、九州に住んでいる私たち自身が、身近にあるがゆえに気づかずにいるということがあるのではないでしょうか。
玉川
 九州には多種多彩な資源があるのに、それを活かしきっていない―という指摘ですが、それはなぜでしょうか。
桑野
 最近、私は北海道へ行って来ましたが、美しい風景がどこまでも続いていました。本当にダイナミックでしたが、道を行くごとに変化する九州の景色、多様な自然を再認識しました。  九州は北海道や沖縄と違って、四季がはっきりしています。日本人が俳句を詠む世界がすべて、九州の風景につながっているのではないでしょうか。これはすごい強みであると思います。でも九州の人たちは、今まで少しも自慢してこなかった。  しかし、風景街道を考える上で、もう一度自分の地域を見回して、自慢できるものは何かと探して見ると、その土地土地の風景や人々の暮らしの良さが見えてきたと思うのです。「実は、自分たち地域もすごいんだ」と思えるようになり、訪れる人たちに自信をもって伝えていると思います。この良さを自分たちだけでなく隣町の人たちとも力をあわせて外にアピールすることの大切さを実感してきていると思います。
玉川
 九州の素材にはいろいろな評価があるわけですが、九州の資源や風景街道をどう評価されていますか。

世界の中の観光地を目指そう ― 樋口さん

樋口明彦氏樋口明彦氏
1958年東京都に生まれ。通算7年米国で暮らし、アーバンデザインや市民参加型まちづくりプロジェクトに参加。99年より現職。専門は景観デザイン
樋口
 九州は、北海道や京都と比べてどうこうとかいうスケールの観光ではなくて、世界の中の観光地になるポテンシャルを持っていると思っています。  イタリアにトスカーナ地方があります。スローライフとかスローフードで最近、非常に脚光を浴びている所ですが、九州はまさに「東洋のトスカーナ」だと私は思っています。それは単純に、ワインに対して地酒や焼酎があるとか、石造りの町に対して、こっちは城下町―ということだけではなくて、九州人の人柄とか、温暖な気候で豊穣の土地であるとか、古い歴史など、世界に誇れるものがいっぱいある地域だからです。  さらに明治維新以後の九州は、大陸をにらんで非常に大きな位置づけをされ、日本初の製鉄所もまず九州に造られた。これらさまざまな近代化遺産といわれるものがたくさん残っている。歴史遺産と自然の風景が重なったパッケージの魅力は、イタリアのトスカーナ地方といい勝負だと思います。ただいかんせん、コマーシャルやマーケティングがまだきちんと出来ていない。
小原
 確かに北海道には、自然の景観一つ一つのスケール感はものすごいものがあります。また北海道の食べ物もおいしいけれど、素材そのものの良さがその特徴です。  一方、九州には食材の良さとともに、優れた加工食品やそれぞれの土地で多彩な郷土料理がある。そして北海道に決定的に足りない歴史がある。もう一ついえば、アジアに近くて、九州内を日常的に韓国や中国の方たちが歩いている。これは国内の他都市・地域にはないことですよね。由布院にも、アジアからの観光客がいっぱい来ていらっしゃる。韓国の方にとって、温泉はすごく魅力的ですし、特に宿泊を考えれば、そこには人と人の交流がある。九州には多様な魅力があると思いますね。

観光と暮らしの結び目に

玉川
 樋口さんは、玄界灘風景街道を設定するにあたって、唐津の地域資源を調査された。ルート選定の苦労や新たな発見などはありましたか。
樋口
 唐津市は平成の大合併で七山村や厳木(きゅうらぎ)町など、生活圏がぐーんと広がってしまい、市役所のスタッフだけでは全然わからない状況になったんですね。それで地元の人たちに加えて、市役所内の道路や公園建設、教育委員会などさまざまな部署が横断的に集まって議論をしたんです。これが良かった。皆さん初対面だったんですが、こっちに曲がると遺跡があるとか、昔の窯跡があるとか、この並木道は誰が作ったとか、どんどん話が熱くなっていく。そういう話をうかがっているうちに、道の役割とは単にドライブして通過するというようなものではなく、おそらくネットワークとしてのソフトウエアなのだと私は考えるようになりました。結論から言うと、玄界灘沿いの東西を結ぶ海岸の道に加えて、八の字型のルートを作り出すことが出来ました。こういう作業は唐津に限ったことではないと思います。行政境界ではなく、暮らしの生活圏、あるいは地形的なもの、あるいは川の流域など、それが集まって九州になる。そういう組み立て方を、風景街道を作る中でもうまくやっていくと、全体がうまくネットワークされていくという気がします。
玉川
 なるほど、九州の場合の風景街道は、ルートごとに孤立せずに、九州全体をうまくつなげていくことが重要なのですね。
小原
 そうですね。今はどこを回るにしても、通り一遍のワンパターンのメニューではうまくいきません。どことどこを行こうかとか、そういう多様性のある、あるいは選択ができるというのが九州の強みであり、大きな可能性を秘めているのです。観光には食べ物と移動と宿泊、いわゆるアゴ・アシ・マクラというんですが、これがワンセットでなければなりません。九州の場合、食べ物と宿泊はいいが、移動については、まだ厳しいところがある。移動手段は道路だけでなくて、空路や海路、鉄道もある。それらを目的地に応じて組み合わせればいいのです。後は私たち行政がどこまでそれを応援できるか、そういう仕掛け作りにかかっています。しかし、滞在したいと思わせるのは、やっぱり地域の魅力であり、人の魅力だと思います。
玉川
 小原局長がおっしゃった移動手段や回遊性に関連する例として、九州のバス会社が連携して販売している「SUNQパス」がある。ものすごい売れ行きだそうですね。  SUNQパスに着眼された動機や背景、どんな使われ方をされているのでしょう。
明石
 九州の地形上、鉄道は海岸線を縫うようにしか整備出来ませんでしたが、最近は高速道路も含めて整備が進み、バスで動くことが便利になりました。お客様が国内外からたくさん来られる時代になって、「バスにたくさん乗っていただこう」という思いがバス事業45社で一致し、九州内の高速バスも路線バスも共に3日間乗り放題で1万円―というSUNQパスに発展したのです。
玉川
 45社で共通して使えるのはいいですね。
明石
 特徴的なのは、韓国で非常に良く売れているということです。韓国の方が個人で、あるいは少人数で移動するときにこのパスを利用していただいているようで、SUNQパスの4分の1を韓国で販売しています。今年7月からは台湾でも販売しており、海外からの来訪者増に寄与できたらと思います。
玉川
 九州は一つのパスで回った方が得だと。つまり、海外の人たちから見ると九州は一つの地域なんですね。もっと海外の方にアピールしたいですね。
樋口
 唐津で言えば、有田焼や伊万里焼が国際的に有名ですから、そういうピンポイントの目的でいらっしゃる海外の方がいます。そういう人たちは、その雰囲気のところに泊まりたいし、途中で変な風景に出くわすことなく完結した旅をしたいと思っている。そういう人たちのためには、相当細かいところまで書き込んだガイドブックが必要ですね。

人を動かすための情報発信を ― 桑野さん

桑野和泉氏桑野和泉氏
1964年大分県湯布院町生まれ。由布院玉の湯社長。07年6月より由布院温泉観光協会長。社団法人ツーリズムおおいた会長などを兼任。
桑野
 情報に関しても、こちらがこうあるべき姿みたいなものを発信していくことが必要だと思います。由布院で海外からの個人の旅行客が増えているのも、そういう情報がしっかり発信されているからだと思います。 たとえば観光客のターゲットである福岡都市圏の人たちにおすすめルートや沿線の情報を伝えれば、福岡の人たちは動いてくれると思います。ちゃんとした情報を多彩なチャンネルで伝えていく。そういう戦略を持って取り組むべきだと思います。

道守が地域の魅力を演出

玉川
 街を歩けば「この場所に、そういう歴史があったのか」「この通りはこういう由来があったのか」と発見や驚きがある。それで街や地域に対する愛着心が湧き、誇りを持ち、そして、 道や通りをきれいにしようとみんなで掃除するなどの行動へと広がっていく。道を守るのは住民の責任だけではなくて、行政とのコラボレーションです。道守と行政のあり方や、風景街道の中での道守の活動は大きな意味を持ちますね。

議論と協働によって共に成長 ― 小原さん

小原 恒平氏小原 恒平氏
1953年岩手県生まれ。1977年旧運輸省入省。06年7月から07年10月まで九州地方整備局長。
小原
 住民の方々が道路や周辺の空間を自分たちのものとして見守っていただき、何かあったときには私たち行政と一緒になってより良いものにしていく、そういう関係は私たちにとっても大変心強いのです。それが国土形成計画の広域地方計画の中での新たな構想につながっているわけです。風景街道には、それぞれの地域でさまざまなやり方があっていいと思います。行政側からいろいろなことを言うつもりはまったくありません。ただ、今までの行政と住民の対立の形、利害関係でものを言うのではなく、一緒になって「何とかしようよ」というある種のコラボレーションをして行けば、良い意味での日本型の民主主義が出来ていくことでしょう。
桑野
 道守の活動によって、また他の地域の方たちとも情報を共有できるようになったことは大きいですね。これはやっぱり道守が大分だけ、熊本だけではなくて、オール九州の中で動いてきたことの成果だと思います。。九州の風景街道は、ルートだけにこだわるのではなくて、オール九州でやっていくようなものに育っていくといいですね。
玉川
 都市部における道守の活動はどう広がっているのでしょうか。福岡の天神のど真ん中で、「We Love 天神」という官民一体の組織がある。街の清掃活動や不法駐輪の対策、交通渋滞解消を目的に社会実験も実施している。
明石
 4月に「We Love 天神」協議会」という運営組織を立ち上げました。民間の事業所、商業、NPO団体、メディア、大学、行政など、全体で約90の団体で構成されています。目標は「歩いて楽しい街づくり」。天神をもっと楽しくして、もっとお客様に来ていただきたい。そのためにどういうイベントをしたらいいか、交通渋滞をどう解決していくか、あるいは自転車の不法駐輪と事故をどう防いでいくか、防犯体制をどうするか、美化をどう進めるか。このような都市問題を解決し、将来にわたって天神がより安全で、アクセスしやすい、魅力ある街づくりをしていくためのガイドラインを作っていこうと考えています。皆さんと十分話し合って、地域全体で一緒にいい街にしていきたいと思います。
小原
 都市の景観で一番大切なのは、そこに人がいるということなのです。建物と道路と人が調和した空間を形成していなければならない。調和というのは、それらが程良く出しゃばらないことだと思うんです。天神はすごく人が多くて、人が行き交う道や空間がそれなりの景観を形作っている。その一方、静かで落ち着いた生活空間の町並みもある。そういう景観と行き交う人たちや住んでいる人の匂いが、すごくいい雰囲気を醸し出して、外から来た人や観光客を引き付ける。加えて福岡は屋台が有名で、昼と夜の表情があるのも魅力的に映っているはずです。ただ、街の魅力をどうつくっていくかというのは、そこに住んでいる人たちが一番大事にすべきもの。行政は道具立てや支援ツールを提供するだけなのです。具体的には、道具立てとして電線の地中化だったり、看板の撤去だったりするわけですが、最後は住んでいる人たちが、自分たちの街をどうするかというところが、一番ポイントになると思っています。
玉川
 外国ではどういう取り組みをしているのでしょうか。
樋口
 環境保全と地域振興を主な活動目的にした一種のシンクタンクが行政組織として存在しています。この組織は、行き過ぎた開発の抑制や、 環境保全のためのルール作りなどの権限も委ねられています。そのシンクタンクは、リージョナル・プランニング・エージェンシーといわれ、リージョン、つまり地域単位で、行政の枠を超えて、一つの経済圏だとか一つの文化圏だとかで組織されている。「We Love 天神 」の90団体は、まさにそういう位置づけとしては同じ。きちんとしたアクションプランのベースになる戦略を作る上でも情報提供する組織が存在していることは、道守を住民主体でやっていく上で、非常に重要なこと。そういう組織が九州でも必要ではないでしょうか。
桑野
 地域にいますと、この専門家集団の方の必要性を感じます。そろそろそういう段階に入ってもいいという気がします。

戦略を練り、交流を促進

玉川
 最後に、これからの九州風景街道の展開や方向性について、提言を。
小原
 九州には素材が豊富にあるが、それを生かす道具立てがまだ十分ではありません。東京で開かれた広域地方計画の会議で、ある方が「九州の人たちは、お国自慢をするんですね」と、驚いていた。お国自慢ができること、もっと言えば、お国自慢ができる人がいるというのはすごいことです。素材とか道具立てを生かすのは人です。私たち行政も地元の方たちと風景街道や道守の活動など議論していく中で、一緒に協働し成長していきたい。そういうことで、地域づくりや地域の未来をどう描いていくかというコンセプトが一層深まる気がします。

多様だからこそ一体となって ― 明石さん

明石博義氏明石博義氏
1958年西日本鉄道入社。99年社長、05年会長、現在に至る。福岡県経営者協会長、社団法人福岡県観光連盟会長など兼任。
明石
 今、企業も産業も海外といろんな競争をしており、都市や観光も大競争時代に巻き込まれていきます。それぞれの観光地や都市が個々に魅力を高めることは大切ですが、単独で競うのではなく、九州の風景街道をつなぐ、あるいは九州から韓国や中国大陸へのルートを作るなど、多くの地域の人々が一緒になって、九州全体で魅力を磨いていくことが大競争時代に九州が生き残っていく方策だと思います。その中で地域の活性化が生まれて、自立していく基盤になる。風景街道としてはそういう展望を持って歩んでいきたいと思います。
桑野
 私が風景街道に期待しているのは、都市と農山漁村をどうつなげていくかという課題に対して、風景街道がその結び目になる可能性があるからです。都市の人たちに農山漁村に来てもらって、失われていく自然や暮らしについて、その地で感じてもらわない限り何も始まらない。九州は地域間が30分圏内、60分圏内、2時間圏内と、程よい距離関係にあります。そこに魅力的な九州風景街道があると行き来しやすい。また、志ある人たちがこの風景街道沿いに何か形を見せていくことによって、自分の村や町を変えていくことも出来るのではないかと思います。

人の風景支える仕組みが必要 ― 玉川さん

玉川孝道氏玉川孝道氏
日本風景街道戦略会議委員、九州風景街道推進会議専門小委員会委員長。道守九州会議副代表世話人も務める。
玉川
 蒲江・北浦大漁海道の蒲江(大分県佐伯市)に行ったときに、魚網を直しているおじさんと座り込んで話をした。家の前で網を干す、まさに漁村の原風景。ところがそのおじさんは「あんた、あと10年もわしらは持ちゃせんがね」と言う。このままだったらこの風景はなくなっていく。やはり都市からそこへ訪ねていく人がいて、そこにお金を落としてくれるような経済的な仕掛けや仕組みが必要です。山あいの棚田だって、あの狭い田んぼを見る方はいいけど、作る方はただごとではないわけです。人の生活の糧をつくり出している風景というのが、北海道と違って九州にはある。そこに魅力と辛さと両方があるように思います。
樋口
 お客さんが来るようになったら、すぐ看板を出してという、ひと昔前の日本人のものの考え方ではなくて、もっと鷹揚に、自分たちの普段の先祖伝来の暮らし方をする。それがエコライフであったりするわけで、それを外から来た人が見て「すごいですね、素晴らしいですね」という。地元の人は「せっかくいらっしゃったのだから、これでも食べていきなさい」と何か出したら、これまた「すごい」―というような交流が九州の風景街道にはあると思います。そういうことを地道にゆっくりとやっていく。しかしそこには何らかの戦略が必要だと思いますので、私たち大学の研究者がもっといろいろな情報や知恵を出してシンクタンクの役割を担っていく。皆さんの力添えが出来るように頑張りたいと思います。
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