別名、ウォーカーズ・パラダイスと呼ばれるポートランドは全米で最も公共交通の発達した、暮らしやすい町として知られている。町を歩いていて周りの静けさに気がついた。それなりに人はいるのに静かなのだ。車がいない!通りを走るのはLRT(ライトレール上を走る電車)のみ。街路樹が青々と繁り、空気は澄み切っている。このところアジア諸都市のすさまじい熱気(大抵は排気ガスや車の騒音)に慣れていた私には、意外な静けさである。排気ガスの臭い、重層的なエンジン音がない。でも人はいる。風が通りを吹き抜ける。横断歩道の真中でゆっくり写真をとっても警笛は鳴らない。車がいないのだから…。
私はもう一度あたりを見回した。ゆったりとした広幅員の歩道は切れ目なく街路樹の豊かな葉の陰に覆われている。どこからか滝のような水音がする。歩道の端の土手を上がると、そこは一街区全体が人工の川に見立てられた公園である。ここは、かつて深い森林に覆われ、自然の滝があったに違いない。土地の記憶を、いくつものスポットから水が湧き、小さな流れが次第に合流して人工の滝になる公園に刻み込んだのだろう。
ポスト・モータリゼーション(自動車時代以降)はアメリカから始まるのかもしれない。そんな思いが頭の中をめぐり始めていた。一国主義と世界から非難されようとも、アメリカは西欧文化の継承者であり、歩行者中心の新しいまちづくりのうねりはアメリカの転向(モータリゼーションからポスト・モータリゼーションへ)の兆候ではないかという思いにとらわれてしまった。