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土木遺産

【vol.5】 河内貯水池は土木遺産の名勝地 いま桜がさかり

池辺 和憲


南河内橋。魚形橋ともいわれ、鋼鉄部材はピンで止められているのが特徴。

 北九州の桜の名所、八幡東区の河内貯水池は近代土木遺産の名勝でもある。ヨーロッパの古城を思わせる石積みのダム堰堤自体が美しく、歩を進めれば美しい橋群「河内5橋」に出会える。
河内貯水池の着工は大正8年(1919)、第一次世界大戦後の鉄鋼需要増で官営八幡製鐵所が八幡東部を貫く板櫃川の渓谷を堰止めて作った。昭和2年(1927)竣工。貯水量700万tは当時東洋一であった。
車が往来できる貯水池西岸を堰堤から500mほど行くと「北河内橋」を渡る。長さ18.8m、鉄筋コンクリート製でカンチレバー・アーチ形式。その先の「中河内橋」は、三連のアーチ型自然石積橋だ。ここで採石されたもので15cmから30cmの大小の石を細かく積んだデザインが印象的だ。
河内5橋の中でとくに目を引くのが、真紅に化粧された南河内橋。通称めがね橋と呼ばれ全長60m、河内5橋のなかで唯一対岸と結ぶ。レンティキュラー(レンズ状の)トラスと呼ばれる鉄橋で、日本ではここにしか現存しない。ゴシック風の橋門構を持ち、土木学会でAランクに指定された土木遺産である。
湖岸西側にさらに進むと堰堤から約1.6kmの奥田のせせらぎ広場にかかるのが「水無橋」。以前は8.5mの第一橋と8mの第二橋の2つが連なり、ともにI形鋼を使って周りを木材で化粧した珍しい橋だったが、今は第一橋だけが20m下流に移され普通のコンクリート橋となり名前だけを残している。
貯水池の最奥部、田代川に架かるのが「猿渡橋」。「中河内橋」の自然石積に対して「猿渡橋」は切石積みの幾何学模様だ。河内貯水池施設は橋といい建物といい自然石が多いせいか切石積みは異国情緒を醸し出す。
河内5橋は工法もデザインもそれぞれ個性的で美しい。設計したのは、当時の八幡製所土木部長・沼田尚徳。漢詩や書にも秀で、貯水池建設にあたり機能だけでなく品格と美をも持たせようとした。堰堤や河内5橋、さらに亜字池と呼ばれる暴気処理池や附属建屋群も沼田の意匠をいまに伝えている。
ダム完成直前、沼田は妻・泰子を亡くした。40歳だった。沼田は内助の功を感謝し、湖畔高台の白山神社境内に石の追悼碑を私費で建て、自作の五言絶句の詩を刻んだ。
貞魄今安在   佳人隔九泉
舊歡帰一夢   腸断落花前
(亡き妻は今…桜が散る、断腸の思いだ)
沼田の詩心と河内5橋のデザインの美しさが重なる。桜の季節はさらに美しい。北九州市民から愛され続けている。

中河内橋/拡幅され湖面側は建設時の石橋だが、山側はコンクリート橋。

※猿渡橋/現在は拡幅のため下流にコンクリート橋がかかる。


※北河内橋/建設時の河内5橋のなかで唯一のコンクリート橋。

※河内貯水池全景

アクセス=JR八幡駅から(西鉄バス)田代行き堰堤前バス停下車。

※印写真は(財)北九州都市協会発行「北九州の土木」より転載

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